六弦一会:
君の名は
2012年04月19日
ストラトキャスターという名前がどこから来たものなのか、前から気になっていました。
兄貴分であるテレキャスターはもう少し分かりやすいですね。
テレキャスターは、1950年のデビュー当初はブロードキャスターという名前でした。“放送する人”という意味ですね。きっと、“広く音楽を伝えるもの”という意味合いを持たせたかったのだと思います。
ですが、ドラム・シリーズに先にこの名前を使っていたグレッチ社からクレームを付けられたために、テレキャスターと変更することになりました。
“テレ”というのはテレビジョンの“テレ”と同じで、“遠い”という意味の接頭語です。
つまり、ブロードキャスターをうまく言い替えたということでしょうね(“広く”と“遠く”の違いはありますが)。
これには、信号をアンプで増幅させることで遠くにまで音を届けられるエレキ・ギターという楽器の特徴もとてもよく出ています。
それに、テレビというのは新しくてかっこいいものという印象もまだまだあったのでしょう。
で、ストラトキャスターですが、これも“キャスター”とある以上は、何かを伝えるという意味があるのは間違いありません。
"Straro"を辞書で引くとこう出てきます。
連結形で「層雲」「成層圏」などの意
ほほう。分かったような分からないような、ですが。
つまりストラトキャスターとは、成層圏をも飛び越えて何かを伝える、という意味でしょうか。
ということは、宇宙にまで届くということですね。
そうか、さすがはストラトキャスター。
最初から地球など相手にしていなかったのでした。
ストラトキャスターがデビューしたのは'54年。
この時代、アメリカとソ連は宇宙開発競争をしていました。
ソ連が人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功したのが'57年のこと。先を越されたアメリカは巻き返しを図って、その後“アポロ計画”を立ち上げるわけです。
話を戻すと、'54年というのは、宇宙開発、中でも人工衛星打ち上げへの期待がアメリカ国内で高まり始めていた時期なのです。
だからこそ、“成層圏を飛び越える”という発想が生まれたのではないでしょうか。
しかし、テレキャスターがテレビジョンから来たとしたら、ストラトキャスターの名前の基になったストラトビジョンなんてものもあったりして……と思ったら、ありました!(しかも、「Yahoo!知恵袋」で、ストラトキャスターの名前の由来として、これについて書かれている方もいらっしゃいました)
ストラトビジョンとは、「《stratosphere(成層圏)+television(テレビ)から》成層圏中継放送。受信範囲を広げるため、送信設備のある専用航空機を成層圏の一定区域に旋回飛行させ送信する方法」(デジタル大辞泉)なのだそうです。
ウィキペディア英語版には、その専用飛行機の写真も載っています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Stratovision
ここに、'45年に提唱され、'48〜'49年にテストされた等と書かれていますので、時代的にも合っています。
ストラトキャスターのネーミングの元ネタはこれだったんですね。
ストラトキャスターの名付け親は、ドン・ランドールという人物です。
彼はレオ・フェンダーの右腕としてフェンダー社のマーケティング担当を務め、会社を大きく成長させました。
ブロードキャスター、テレキャスターもそうですし、エスクワイア、チャンプ、ベースマンなど、どうやらフェンダー製品はほとんど全てこの人が名前を付けていたようです。
ランドールさんは、その後副社長になりますが、'69年にフェンダーを退社、'70年にアンプ・メーカーを立ち上げました。それが今でもあるランドール・アンプです。
そして、'09年に91歳で亡くなっています。
このランドールさんのおかげで、ストラトキャスターはストラトキャスターになったわけです。
もうちょっとデビューが遅かったらサテライトキャスターとか、ケーブルキャスターになっていたかもしれないですね。
うーん、ストラトキャスターで良かった。
ところで、先ほど"Straro"の説明の中で「層雲」という言葉が出てきました。
これは層になって重なった厚い雲のことですが、ではこれを英語一語で何と言うか調べてみると……
Stratus
なのです。
おお!
ビリー・コブハムのアルバム『スペクトラム』に収録された名曲「ストレイタス」を、トミー・ボーリンがストラトキャスターで弾いたのは必然だったのですね。
そして、それをカバーしたジェフ・ベックがストラトキャスターで弾くことも……。
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