六弦一会:
ギターの音は指が作る! のか?
2012年05月09日
“ギターの音は指が作り出すものだ”とよく言われます。
僕自身も、ムック等でギタリストの機材解説を書いた場合、そういうようなことを最後に付け足すことがあります。
そうでないと、“同じ機材を使えば同じ音が出せる”と思い込む人がいるかもしれないので、それは違うよ、と言っておきたいからです(もちろん似た音にはなりますけどね)。
ここで言う“指で作る”というのはちょっと比喩的な意味もあって、つまりは“弦の押さえ方、ピッキングの強弱、角度などを含めたその人の弾き方の総体”と言っていいと思います。
またそこに、“その人のギタリストとしての個性”みたいなものを加味して言う場合もあります。
しかし、この考え方が行き過ぎると“ギターの音は指が作り出すものだ、機材なんか関係ない、特にエフェクターを使うなんてもってのほかだ”みたいな極端なことを言い出す人もいたりします。
こういう人を僕は、“ギターの音は指原理主義者”と呼んでいます(笑)。
先日YouTubeで、日本ではほとんど無名のあるブルース・ギタリストのライブ映像を観たのですが、演奏も音も素晴らしいものでした。
それで、コメント欄を読んでみたら、やはりアメリカでも事情は同じようで、こういう書き込みがありました。
“最高の音だぜ! やっぱりギターの音ってのは指が作るもんだね。●●(ギタリスト名が入る)にゃ、エフェクターなんか必要ねえぜ!”(ちょっと脚色)
……いや、映像観ると足元にエフェクターボードが映ってるんですけど(笑)。
オーバードライブと、あと何かひとつかふたつぐらいのシンプルなボードではありましたが。それに、音を聴くと、オーバードライブ(か、ブースター)でアンプをブーストしているのが分かる張りも感じられました。
その書き込みをした人は、“素晴らしいギタリスト=指で音を作る=エフェクターなんか使わない”という思い込みが出来上がってしまっているんでしょうね。
だから、エフェクターボードが映っていても目に入らないのでしょう(笑)。
しかし不思議なのは、そういう“ギターの音は指原理主義者”たちも、なぜかジミ・ヘンドリックスのことは認めるんですよね。
じゃあ何かい、あのファズの音は指で歪ませとんのかい! あのワウ・ペダルの音は指でワウワウ言わしとんのかい! あのユニバイブの音は指でウニウニやっとんのかい!
とツッコミたくなるのですが、原理主義者たちは負けずに、“ジミヘンの指があるからこそ、エフェクターに負けていない”とか言い出すのです。
いや、それも正しいとは実は僕も思っています。ジミがエフェクターいっさいなしで弾いた音源を聴いたって素晴らしいですから。
でも彼は、自分のイマジネーションをサウンドで表現しようとしたときに、指で作る音だけでは足りなくて様々なエフェクターを使ったわけです。
それはそれで認めるべきだと思うのです。
いや、認めるどころか、エフェクターを使ってこんなすごいことをやったんだとか、彼の頭の中ではきっとこんな音が鳴っていて、それを表したかったんだろうなとか、素直に感動すべきだと思います。
彼はギターの音を聴かせるためにギターを弾いていたのではなくて、ほかのどこにもない音楽を作るためにギターを弾いていたのですから。
ギターが大好きだからこそ、ギターを使ってそれをやろうとしたという点も大事だと思いますが。
“ギターの音は指が作る”というのは正しいと思いますし、前提としてあっていいと思います。
というか、あるべきだと思います。じゃないと誰もギターの練習をしなくなっちゃうし(笑)。
でもその上で、エフェクターを使うも良し、使わないも良し。
要は、そのギタリストが何をどう表現したいかが最も大事なのです。
これをもっと突き詰めていくとギターやアンプを含めた機材全体の話になりますし、また演奏の上手い・下手と音楽表現との関係はどうなのかという大きな話にも発展していってしまいますので、今回はこのへんで。
あ、これはまったくの余談ですが、レス・ポールをアンプに直結しているギタリストを見て、“アンプ直であの音なんてさすが!”と言う人がよくいます。
でもそれを聞くと、“ズルイ〜、ハムバッカーはそれ自体がブースターじゃん!”とストラト派の僕は思ってしまいます(笑)。
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