六弦一会:
歪みサウンドを世に送り出した人物
2012年08月02日
以前このコラムで“歪み”についての考察を書きました。
レコーディングされた最初の歪みサウンドは、ジャッキー・ブレンストンの「ロケット88」という曲であることも。
http://www.targie.com/b/001/index.php?FID=blog/detail&ENTRY_ID=47実はもう1曲、最初に歪みサウンドがレコーディングされたと言われている曲があるのです。
それは、ハウリン・ウルフが1951年に録音した「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」です。
ウルフはマディ・ウォーターズと並ぶシカゴ・ブルースのドンですが、これはまだシカゴに出る前、メンフィスでの録音です。
ギタリストはウィリー・ジョンソン。シカゴではヒューバート・サムリンがウルフの右腕として活躍し、ジミ・ヘンドリックス、エリック・クラプトン、スティーヴィー・レイ・ヴォーンらに大きな影響を与えましたが、'53年までのメンフィス時代にはこのジョンソンがギタリストを務めました。
さて、ではハウリン・ウルフの「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」をお聴きいただきましょう。
(説明文にあるとおり、1959年のアルバム『モーニン・イン・ザ・ムーンライト』に収録されています)。
うーん、歪みまくっていますね(笑)。
ちなみにこれは、パワー・コード(コードのルートと5度のみを押さえるやり方。特にハード・ロック系では迫力を生み出すために有効)が史上初めて使われた曲とも言われています。
それでは、「ロケット88」と「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」のどちらが先かというと、「ロケット88」は'51年の3月録音、「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」は5月と、「ロケット88」に軍配が上がります。
面白いのは、両者ともサン・スタジオで録音されていること、そしてサン・レコードのオーナーであるサム・フィリップスがプロデュースしていること!
前回書いたように、「ロケット88」のギター・サウンドは、「壊れたアンプから偶然出て来た歪んだサウンドをプロデューサーのサム・フィリップス(サン・レコードの創始者で、後にエルヴィスを世に送り出す人物)が気に入り、“意図的に”レコーディングに使った」わけですが、どうやらそれで味をしめたフィリップスが、同じサウンドを「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」でも使った、というのが正解のようです。
レコーディングの詳細が不明なので、「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」での歪みサウンドをどうやって生み出したかは分からないのですが、ギター・アンプのスピーカーにわざと穴を開けたというのが考えやすいところです。
もしくは「ロケット88」で使われた壊れたアンプをフィリップスが譲り受けていたか……。
間違いなく言えることは、エルヴィス・プレスリーを世に送り出したサム・フィリップスは、それ以前に歪みサウンドも世に送り出していたということです。
その隠れた功績は、エルヴィス発掘よりも大きいかもしれません。
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