ギターはギタリストにとって、道具であると同時に、顔である。
だからこそ、ギタリストのトレードマークとして有名になったギターは数知れない。

たとえば、エリック・クラプトンのブラッキー。
スティーヴィー・レイ・ヴォーンのナンバー・ワン。
ロリー・ギャラガーの塗装のはげた'62年製ストラトキャスター。
ジミー・ペイジの'59年製レス・ポール。
ジミ・ヘンドリックスがウッドストックで使った白・メイプルのストラトキャスター。
日本では、鮎川誠のブラック・ビューティー。
Charのムスタング。
高中正義のヤマハSG。


そして、このギターも間違いなくそのひとつだ。
鈴木茂のフィエスタ・レッドの'62年製ストラトキャスター。
その伝説のギターによる、伝説のギタリスト、鈴木茂の流麗かつアグレッシヴなプレイを、体感することができた。
'07年2月17日、東京・下北沢のCLUB Que。
青山陽一と田中拡邦(Mamalaid Rag)による、『Root is One〜歌うギタリスト達の宴〜』というタイトルのライヴ。
ここにゲストとして、鈴木茂が登場した。
はっぴいえんどをキーワードとして、鈴木茂・青山陽一・田中拡邦という世代の異なるギタリストが、きれいにつながった。
そんなライヴだったし、それはまた、日本における日本語によるロックの美しい系譜を感じさせるものでもあった。


まずは青山と田中で数曲。
それぞれの持ち味がしっかりと出た楽曲、演奏を聴かせてくれた。
ともにゆったりとしたグルーヴ感の持ち主だが、それはアメリカ南部のレイドバックとは違い、あくまでも日本的なものである。はっぴいえんどがどんなにリトル・フィートを真似ようとも、そこに日本的な独特の(もちろんいい意味での)ゆるさがあったのと同じように。
青山は黒のストラト、田中は青のストラト。



そこへフィエスタ・レッドのストラトが入ってくる。
鈴木茂の登場だ。
曲ははっぴいえんどの「抱きしめたい」。
青山のものとも、田中のものとも違う、鈴木のトーン。
同じストラトでありながら三者三様の音、しかしどれもがやはりストラトの音だった。
このイヴェントには、演奏の楽しさだけではなく、3つのストラトの音そのものを味わう楽しさもあったと言える。
それにしても、鈴木のトーンの素晴しさは特筆もの。
ヴィンテージ・ストラトならではの、枯れた木自体がスクイーズしているかのような音に、場面ごとにきらびやかで多彩な表情が明滅する。

まさに極上のトーンだった。
そして、鈴木のソロ名盤『バンドワゴン』から「スノー・エキスプレス」。
日本のフュージョンのひとつの到達点を感じさせるこの楽曲を生で聴けたのは驚きであり、よころびだった。
同じく『バンド・ワゴン』から「100ワットの恋人」。鈴木の歌と、スライド・ソロが絶妙に絡み合う。
そして、ティン・パン・アレイ時代の「ソバカスのある少女」。ストラトのナチュラルでやさしいトーンとおだやかな歌声がたまらない。

続いて「花いちもんめ」。はっぴいえんど時代にも鈴木が歌っていた曲だ。青山と田中が気持ちよさそうにコーラスをしている姿が印象的だった。この曲を鈴木といっしょに演奏し、コーラスすることの幸せを、彼らはかみ締めていたのではないだろうか。
再び『バンドワゴン』から「砂の女」。跳ねたリズムが心地いいこの曲で、鈴木はいったんステージを降りた。
“親子”と言うのは、若い2人よりもエネルギッシュなステージングを見せてくれた鈴木に対して失礼かもしれない。だが、音楽的にはやはり親子と言うしかない、固い絆がこの3人からは感じられた。そして、その関係性が、また非常に美しくも見えたのだった。
鈴木が去ったあと、青山と田中でまた数曲を演奏。
はっぴいえんどの明らかな影響を感じさせる、Mamalaid Ragの「春雨道中」が、なんだかこのときには特別な意味合いがあるように感じられたし、きっと田中も特別な感慨をもってこの曲を演奏したのではないかと、ぼくは思う。


アンコールで再び鈴木が登場。
まずはビートルズの「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」。オリジナルよりも肩の力の抜けた、いいカヴァーだった。
そして、はっぴいえんどの「さよなら通り3番地」。トロンボーンを入れてどっしりとした手応えのある演奏が繰り広げられた。
最後は「はいからはくち」。はっぴいえんどのファンにとっては、鈴木がこの曲を演奏するのを生で聴けた・観られたというだけで、大満足だったのではないだろうか。その気持ちに応えるかのような鈴木のワイルドなプレイには、もう脱帽するしかなかった。


伝説のストラトで、伝説のギタリストが、伝説の曲の数々を惜しむことなく披露する。
それを、彼に憧れる世代の違う2人のギタリストが嬉々として(この2人の場合、それほど感情が表には出ないのだが……)サポートする。
なんと贅沢極まりないライヴだったことか。

 
 
 
  本サイトで使用されている、写真、画像、文章等を無断転用することを禁じます。