9月4日、ichiroのデビュー20周年を記念した“Circle Scale Tour”が、ついにファイナルを迎えた。会場は渋谷クラブクアトロ。小笠原義弘(b)、工藤恭彦(ds)という、アルバム『CIRCLE SCALE』のレコーディングから長期ロードまでを共に走り抜けた2人=“サークル・スケール・メンバー”を核としながら、そこに“スペシャル・メンバー”として、TOKIE(b)、中村達也(ds)、川村ケン(key)が、さらに“スペシャル・ゲスト”として、佐藤タイジ(vo,g)、仲井戸“チャボ”麗市(vo,g)が加わるという、3層構造の豪華な内容となった。
しかし、まずもって素晴らしかったのは、ichiro、小笠原、工藤が、この2ヶ月の間にバンドとして急速に成長、成熟していたことだ。ichiro+バック・メンバーではない。確固とした、ひとつのバンドとなっていた。オープニング・ナンバーはこの3人での「Want Your Love So Bad」だったが、出だしの1音を聴いただけでそれが伝わってきた。まるで3人が同時に呼吸をしているような、それもどこにも無理がなく、自然とそうなっているような、そんな出音だった。そしてそのあとに演奏されたどの曲も、ツアーを経ることでこなれてはいながらも、ビシッとした緊張感を保っていた。
一方で、“スペシャル・メンバー”との演奏には、それとはまた違った、一回性だからこその楽しさがあった。艶やかに、しかしアグレッシヴにベースを操るTOKIE。バックに回って堅実なプレイで全体を支えつつも、ソロではゴージャスなプレイを聴かせる川村ケン。そして、「Back In Dream Town」から加わった中村達也の、時に跳び上がりながら、時に叫びながらの叩きまくりぶり、暴れぶりは、デビュー20周年を迎えた旧友ichiroへの、何よりの贈り物となったのではないだろうか。
“スペシャル・ゲスト”の佐藤タイジは、シアター・ブルックの「立ち止まって一服しよう」、「生理的最高」を披露。ワイルドでありながら情感のこもった歌とギター・プレイは圧巻で、今回が初めての共演となったichiroとのコンビネーションも完璧だった。同じ世代の彼らは、これを機に今後一緒に何かをやっていこうという話をしたというから、そちらの動向も楽しみだ。
そして、存在感の違いを見せつけたのがチャボ。特に、RCサクセションの「いい事ばかりはありゃしない」、ichiroからのたっての願いで演奏されることになったという「今夜R&Bを...」では、まるでチャボのライヴにichiroがゲスト出演しているかのようにすら一瞬見えたほどだ。だがチャボは、ichiroとの初対面の時のエピソードを語り、しっかりと彼を引き立てて、20週年を祝福してくれる。その姿には、温かい人間性が見て取れた。
MCでichiroが言うには、彼は中学・高校時代に、RCサクセションが大好きで、よく聴いていたそうだ。海外のブルースやブルース・ロックばかりを聴いていた印象が強い彼の、少し意外なルーツが垣間見えたことも、ファンにとっては嬉しかったに違いない。また、それを聞いて、「なんだ、それ知ってたら、俺もっと威張ってたのに!」と言うチャボもおかしかった。
“スペシャル・メンバー”、“スペシャル・ゲスト”との演奏で印象深かったのは、ステージ全体が温かいヴァイブレーションに包まれているかのように感じられたことだ。出演者全員のichiroの20周年を祝う気持ちと、純粋に彼との演奏を楽しんでいる気持ちがひとつになったからこそ、そのヴァイブレーションは生まれたのだと思う。あとで聞くと、ichiro自身もそれを感じながら演奏していたという。
この日の使用ギターは、“No.1”と呼ばれる'63年製のストラトキャスターと、今回も演奏されたインスト・ナンバー“Silverado”の曲名にもなった、SLIP!!のichiroモデルが主だった。だが、出演者全員がステージに上がったアンコール最後の曲、「上を向いて歩こう」で、彼はギブソン・ファイアーバードを手にした。デビュー・アルバムのジャケットに登場し、当初のichiroのイメージを形作った記念すべきギターだ。このとき、20年というまさにひとつの“サークル”が閉じた気がした。大きく大きくスケールを広げたサークルが。そしてそれは、新たなサークルの始まりを意味するものでもあった。
このライヴの模様は、11月27日にDVDとしてリリースされる予定になっている。サークルが閉じ、また始まる瞬間を、ぜひその映像作品で体験してほしい。 |