CD1

 クリス・デュアーテとBLUESTONE COMPANYの面々は、当然のことながら生まれ育った国が違う。しかし、ブルースやブルース・ロック、サザン・ロックはもちろんのこと、ハード・ロックやジャズ/フュージョンなど、彼らの血と肉になっている音楽は同じだと思う。そしてまた、それらの音楽への愛情の持ち方や、接し方や、気持ちの入れ方や、少し大げさに言えば、人生の懸け方までもが、同じだと思う。だからこそ、彼らの絆は固い。

 クリス・デュアーテ&BLUESTONE co.のライヴを初めて観たのは、06年の高円寺JIROKICHIでのことだった。彼らの初めてのジョイント・ツアーの最終日だったと思う。「度肝を抜かれる」という表現がピッタリと来るような、すさまじい演奏だった覚えがある。
 だがそのときは、BLUESTONEが(と言うよりも、当時の感覚としてはヴォーカルのいないSAVOY TRUFFLEが)、クリス・デュアーテを迎えてのライヴ、という印象が強かった。クリス・デュアーテとBLUESTONEによるそれぞれの素晴らしい演奏を、同時に味わえる感じとでも言おうか。
 彼らはその後、日本のみならずアメリカ・ツアーも果敢にこなしてきた。そして共作アルバムも2枚作り上げた。観るたびに彼らが、ひとつのバンドになっていくのが分かった。「クリス・デュアーテとBLUESTONEによるそれぞれの素晴らしい演奏を、同時に味わう」のではなく、ひとつのバンドの、ひとつの素晴らしい演奏を味わえるようになってきた。
 その成果であり、到達点が、今回の日本ツアーだったのではないかと思う。しかし、彼らに馴れ合いは感じられない。日米に離れて住んでいて、双方の国でのツアー(や、それを利用してのレコーディング)のときにしか一緒に活動できないことが、常に彼らの音楽・演奏の鮮度を保ってきたのだろう。だから、まるでひとつのバンドのようなまとまりがありながら、演奏のテンションはいっさい下がらない。むしろ、観るたびに上がっている。
 それはまるで、遠距離恋愛をしているカップルの逢瀬のようだ。長年連れ添った夫婦の穏やかな会話も悪くはない。だが、お互いを欲しながらも会えない日々を過ごしてきた恋人同士の燃え上がるような抱擁は、見る者の心と体を熱くするのだ。

 1月31日の目黒ブルースアレイ。大喝采の中、ステージに上ったとたんに日本語で挨拶し、大相撲の話を始めるクリス。それをにこやかに聞いているBLUESTONEのメンバーたち。そんな和やかな雰囲気は、1曲目の「Back In Town」で一気に狂おしいほどのブルース・ロックの世界へと様がわりする。彼らの最新共作アルバム『396』のオープニングを飾るアップテンポで、軽快なナンバーだ。2曲目の「Put Up Or Shut Up」も同アルバムから。パワフルでタイトな、最強のリズムを叩き出す高橋泰三のドラムと高木太郎のパーカッション。そして、正確さとアグレッシヴさに色っぽさまで加えた小笠原義弘のベース。その上で住友俊洋のギターと、クリスのヴォーカル&ギターが自由自在に躍る。
 今回、住友はブラウン・サンバーストのギブソン・カスタム・ショップ製レス・ポールを使用。最近入手したものだそうで、デュアン・オールマンの愛機を思い起こさせるルックスをしている。一方のクリスはグリーンのエキゾティックがメインだ。
 「Big Legged Woman」は、クリスのデビュー・アルバムに入っていたフレディ・キングのカヴァー。圧倒的なファンクネスがたまらない。クリスのソロ途中でのモジュレーション系エフェクターの使い方の上手さも特筆しておきたい(この曲に限ってのことではないが)。
 再び新作から「Angelina」、そしてクリスの「Do It Again」を挟んで「396」へと続く。各メンバーのプレイの切れ味がどんどん増して来ている。それによって、会場の空気の密度が濃くなったような気さえする。
 次の「The Ballad Of Kohima Ridge」も『396』から。この曲ではどっしりとした演奏ぶりがいい。そして、もっとゆったりとした「She Cries」では、さらにスケール感がアップした。クリスの歌うメロディーが感動的に響き渡る。
 「Chattahoochee Side」での住友のスライドは聴きものだった。なんと言えばいいだろう、唸っているのに歌っている……そうとしか表現のできないプレイだ。
 「Satisfy」、「People Say」とクリスの曲が続く。しかし、“彼らの曲”と言ってしまってもいいほどに、体に馴染みきっている様子を感じる。続く「Funky Mama」、「Luck Shine On Me」は、“彼らの曲”。「Funky〜」は、タイトルどおりにファンキーながら、ジャズ・ロック的展開を見せるインスト・ナンバー。彼らの懐の広さを感じさせる1曲だと思う。「Luck Shine〜」は大きなグルーヴを持ったシャッフル・ナンバー。思わず体が横揺れしてしまう。
 ここでまた、「The Best I Can Do」、「Leave Her Be」とクリスの曲が続く。これらは昨今の彼の充実ぶりを象徴しているような作品だと思うが、BLUESTONEとともに演奏することで曲の魅力が倍増している気がする。「Leave Her〜」では、住友のスライドに目を見張らされた。こういう重めのシャッフル・ナンバーでの彼のプレイには、デュアン・オールマンの魂を感じないわけにはいかない。
 再び『396』から「Silverspoon」、そしてその勢いのままに、本編最後の「My Way Down」へと突入する。クリスの代表曲のひとつであり、BLUESTONEとの演奏でもすっかりお馴染みとなったナンバーだ。
 アンコールは「Still I Think Of You」と「Give It Back To Me」。これらも『396』収録曲だ。他の追随を許さないグルーヴ感とともに、ヒネリと小技も利かせた、彼らならではのナンバーだ。この2曲で観客を圧倒し尽くし、彼らはステージを降りた。


 今回のライヴは、『396』からの選曲が多かった。もちろん、最新作だからということもあるだろう。だが、このアルバムの曲を演奏することは、彼らにとってもっと大きな意味があるのではないかと思わされた。
 それは、固い絆と燃え上がる抱擁の証なのだ。

CD1

01-Back In Town

02-Put Up Or Shut Up

03-Big Legged Woman

04-Angelina

05-Do It Again

06-396

07-The Ballad Of Kohima Ridge

08-She Cries

09-Chattahoochee Side

10-Satisfy

11-People Say

12-Funky Mama

13-Luck Shine On Me

14-The Best I Can Do

15-Leave Her Be

16-Silverspoon

17-My Way Down

<Encore>

18-Still I Think Of You

19-Give It Back To Me

 
CD1

Chris Duarte & Bluestone Company
「396」

レーベル:Pヴァイン・レコード
ASIN:B001M5LO02