ライヴレポートタイトル
あれは1971年か1972年あたり。学校の帰りがけに渋谷のジャンジャン(渋谷公園通りにあったライヴ・ハウス)へ行くのが楽しみな高校時代のことだった。たった300円で、昼の部に出演しているロック・バンドを見られたのだから、なんと幸せな時代だったのだろう。そこでボクは、3人組のRCサクセションやブルース・クリエイションと出会った。また、高校生でピンク・フロイドの「エコーズ」を完コピしているバンドがいるというウワサを耳にして、四人囃子のライヴを観に行き、日比谷野音の空気を浄化していくかのような、透明感あふれる「エコーズ」に、息を留めて聴き入ったものだ。
そんな少年時代を過ごしたからこそ、クリエイションと四人囃子が復活してジョイント・ライヴを行うというこの日が、楽しみでしようがなかった。


「なすのちゃわんやき」でスタートしたこの日の四人囃子は、かつての代表曲をメインに据えながらも、坂下秀実による、プログレ色を打ち出した「オレの犬」と、佐久間正英によるキャッチーでロックな楽曲の2曲を、新曲として披露。ある意味では、かつての名曲を演奏するだけで、ノスタルジックなオーディエンスを納得させられるだけの実力を持ちながら、ここでなお“プログレス(進化する)”という言葉にこだわったかのような、その姿勢には、共感できるものが大きかった。
ディレイやフェイズといった空間の揺らぎを演出するエフェクトを使いこなしながら、曲のシーンが要求する表情の違いに合わせて、ギターの音色を微妙にコントロールしていく森園勝敏。レズリーならではの手で触れることができそうなオルガン・サウンドと多彩な音色を生み出して、“プログレッシヴ・ロック的な”キーボードというイメージを強く印象づける坂下秀実。譜面を横に置きながら、かつてよりもタイトな印象のリズムを刻む岡井大二。
そして、タイトなベース・ラインだけでなく、以前はリコーダーで演奏していた部分をウィンド・シンセで聴かせたり、コーラスを聴かせたり、エフェクトを自らコントロールしたりと、場面ごとにバンドとしての四人囃子を引っ張っているようなステージングを見せた佐久間正英。

90年代に再結成を行い、これまでにも何度となく四人囃子としてライヴを行っているだけに、彼らが音を出すという行為が、ただノスタルジックなだけで終わっていないということが、キチンとオーディエンスに伝わってきた。その反面、代表曲でもあり大ヒットした「レディ・ヴァイオレッタ」では、ともすると時代の流れを感じてしまう場面もあったのだが…。それでも、最後の最後に、不朽の名曲「一触即発」を力づくでキメて、すべてのオーディエンスを納得させてしまう力量はさすがだった。
鳴りやまないアンコールに応えて登場した彼らが、この日のオーディエンスにぶつけてきたのは、バルベ・シュローダー監督の映画「MORE」のサウンドトラックとして、ピンク・フロイドが69年にリリースしたアルバム『MORE』に収録されていた「CYMBALINE」だった。
この曲の中盤では、ステージにしゃがみこんだ佐久間正英がディレイ・マシーンをコントロール。会場に響き渡ったディレイ・サウンドは、かつてプログレッシヴ・ロック・バンドに愛用されていたビンソンのエコー・チェンバーのような、飛び道具としての過激さを持って、空間を切り裂いていた。
その昔、ピンク・フロイドの大曲、「エコーズ」を完コピしたウワサの高校生バンドは、あれから35年たったいま、再びピンク・フロイドのカヴァーでステージを締めくくったのだ。余韻は深く、広く、心のなかに広がっていった。

1:なすのちゃわんやき
2:空と雲
3:おまつり
4:オレの犬(新曲)
5:空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ
6:レディ・ヴァイオレッタ
7:カーニバルがやってくるぞ
8:泳ぐなネッシー
9:Sakuma#1(新曲)
10:一触即発

ENC:CYMBLINE

クリエーション写真
セット・チェンジのための長いインターバルをはさんで、ステージのPAスピーカーから流れ出したのは、70年代中期のリッチー・ブラックモアズ・レインボーのライヴを思わせるような重厚なキーボード・サウンドだった。30年もの年月を超えて、ステージの上に姿を現したクリエイションは、ギタリストでありリーダーでもあった竹田和夫とドラムの樋口晶之に加えて、80年代初期のメンバーだったヒロ小川とミック三国が参加したランナップだった。
夏木マリ GIBIER du MARIにも参加している樋口晶之の安定度抜群なビートは、かつてのクリエイションのターボ・エンジンそのままのタイトさで、以前よりもディスト―ション成分が少なくり、よりギターそのものが持っている音色をストレートに出している竹田和夫のギターにからみついていく。

フェリックス・パッパラルディのプロデュースによってクリエイションという名前がメジャーになる以前にも、彼らにはブルース・クリエーション時代からのバンドとしての歩みがあったし、パッパラルディ以降にも、昨年他界してしまったアイ高野が参加したクリエイションが存在したこともあった。クリエイションというバンドが、時代ごとに姿形を変えながら存在していたことを、ボクはけして忘れてはいない。
しかし、あえていうならば、クリエイションというバンドを思い浮かべるときに、ほとんどの人の脳裏に浮かぶのが、76年あたりのパッパラルディとの時代であり、「Lonely Heart」や「Mama You Don’t Cry」といったヒット曲を生み出した時代の姿であることは確かだ。
クリエイションというバンドが最大限の衝撃を与えていた当時のイメージを思うと、今回ステージに立っていたのは、そのイメージのままのバンドというわけではなかった。

パブリック・イメージとしてのクリエイションで印象的だったのは、竹田和夫と飯島義昭によるツイン・ギターのアンサンブルだった。ギター・インスト・ナンバーとしては破格の大ヒットだった「Spining Toe Hold」のスピーディなリフにしても、「You Better Find Out」でのツイン・ギターのスリリングなフレージングにしても、当時のギター小僧たちの心をとらえて離さないものだった。
もちろん、それ以降にツイン・ギターという編成ではないクリエイションがあったことも充分に理解したうえで言うのだが、ここはやはりツイン・ギターでかつての名曲を聴きたいところだった。ステージでは、もう1本のギター・パートをミック三国がキーボードで、見事に再現していたし、アンサンブルとしてはそのスタイルで完結してはいたのだが、ボクのなかにいるワガママなギター小僧は、その点で、とてもガンコだった。

納得できないガキを心にかかえながら、現在形のクリエイションを観るのは、少しやっかいな気分ではあったものの、現在の竹田和夫が志向している音楽性を押し出したソロ・コーナーや、微妙なギターのトーンの変化による表情豊かな彼のプレイは、さすがに問答無用の説得力を持って耳に届いてくる。
かつての、ロック・バンドというたたずまいとは別に、年輪を重ねた音楽集団としてのクリエイションがそこに存在していた。力量で聴かせてしまう彼らを前にしながら、勝手にロック・バンドとしてのたたずまいを追い求めてしまうのは、オーディエンス側のないものねだりでしかないことを、そのサウンドが証明しているように感じられたものだ。
それでも、耳に、そして体によく馴染んだかつての名曲たちが、次から次へと披露され、空気に溶けていくその音を握りしめようと、感覚の触手を伸ばしているのは、じつに楽しい経験だった。
ノスタルジックなだけではなく、オーディエンスが求めている過去の形と、演奏者自身が表現しようとしている現在とのバランスが取れたときに、再結成バンドのライヴは高いクォリティで、心のなかに深いくさびとなって打ちこまれるはずだ。
その瞬間を楽しみにしながら、ボクたちオーディエンスもまた、音楽と向かい合う自分自身の姿勢を、再認識していきたいと、心から思った夜になった…。

1:Introduction
2:Pretty Sue
3:Lonely Night
4:You Better Find Out
5:Secret Power
6:Dark Eyed Lady Of The Night
7:Try Me Tonight〜竹田ソロ
8:New Way New Day
9:Johanna
10:New York Woman Serenade
11:Lonely Heart
12:Mama You Don't Cry
13:竹田ソロ〜竹田 with 小川
14:Dreams I Dream Of You
15:Tokyo Sally
16:Tobacco Road

ENC:Spinning Toe Hold


アンカー