Yosuke Miyake vs. Raven Otani
photo TARGIEでもちょくちょく紹介している三宅庸介のバンドと、大谷令文が在籍しているBLACK TIGERが三軒茶屋で対バンするという、なんともオトナのギター・サウンド・マニアにぴったりなライヴ企画があるということで、猛暑と酷寒(あくまでもいまの時点では予想、ね)の合間にちょこっとあった秋の夜長に、三軒茶屋のライヴ・ハウス「グレープフルーツ・ムーン」に足を運んでみた。
 音の大きなバンドはあまり出演しそうにない、こじんまりとしたオシャレなたたずまいのグレープフルーツ・ムーンのステージには、ずらりとマーシャル・アンプが顔を並べ、開演前の楽屋を訪ねてみれば、大谷令文愛用の陽焼けしたストラトが、ご主人の代わりにイスを占拠して、その向こうのイスにはこれもまた愛用のストラトを抱えた三宅庸介が静かに開演時間を待っていた。
 この空気感。なんともいえずに安心できる懐かしいような雰囲気が漂っていると同時に、これから始まる真剣勝負に向けての緊張感が静かに高まっていく感覚。
 グラスを手にして、思い思いの場所でライヴの開演を待っているオーディエンスのまえに、最初に登場してきたのは、BLACK TIGERだった。
photo ドラムには、元X-RAYで、現在はSONSやTHE卍など数えきれない現場で活躍中の高橋“ロジャー”和久。ベースに元マルコシアス・ヴァンプで、ロジャーとはTHE卍で行動をともにしている佐藤研二。
 誰がどう見たって、それぞれが超一流の実力を備えたベテランのトリオだ。ローリー寺西がギター&ヴォーカルを努めているTHE卍は、ある意味で70年代ロックに対するオマージュというアプローチではあるが、ローリーからレイブンに代わっただけで、このふたりが作りだすリズムのアプローチも劇的に変化していた。
 BLACK TIGERのサウンドは基本的にリフを中心にした王道のロック・サウンドで、曲によってそれぞれのメンバーがマイクに向かって歌うというスタイル。だからといって、けして“歌もの”というわけではなく、ガッチリと3人がバトルをくり広げることが前提となっている。そういう部分では、現代ロックの始祖鳥ともいうべきクリームと似た方向性を持ちながら、やはりそこは21世紀に生きるロック・マスターたちらしく、けしてノスタルジックに構成された音で終わってはいない。
photo フル・コンタクトの格闘技のように、それぞれの繰り出す音が、空気中で火花を散らしながらぶつかりあったうえで、三位一体となって楽曲の形を作っていく。瞬間瞬間で変化し続けていくその音が、観客を圧倒していった。
 基本的には、インスト・ナンバーがメインとなってはいるものの、大谷レイブンが3曲、ロジャーと佐藤研二が1曲ずつヴォーカルを披露。しかも、なんと早くも2曲目でレイブンがマイクに向かう。これがまた、それぞれのメンバーの個性たっぷりな楽器の音と似て、いかにもその人らしさがにじみ出た、それぞれの歌だったのにはビックリ。けしてウマイと絶賛するほどではないが、彼らが積み上げてきたキャリアのなかで自然に培われてきた声であり、息づかいがしっかりとこめられている。その歌こそが、BLACK TIGERの“味”であり、本当の聞きどころだったのではないだろうかというのが、正直な感想だ。
 すばらしいテクニックと、瞬間瞬間のワザの応酬は、たしかにロック・バンドならではの醍醐味を伝えてくれたが、その迫力と同じくらい、彼らの声が伝えてくれた楽しそうな表情こそが、観客を喜ばせたといえるだろう。


photo BLACK TIGERに続いて、三宅庸介は、ベースの山本征史とドラムの金光健司によるYosuke Miyake's Strange,Beautiful and Loudでステージに登場。ここしばらく行動を共にしている気の許せるメンバーたちだけに、ステージに姿を現した瞬間から、緊張感のなかにもおだやかな表情をうかがうことができる。
 同じトリオ編成のバンド形態でありながら、BLACK TIGERとのいちばんの違いは、全員がそれぞれの主張を押し出してバトルをくり広げていくBLACK TIGERに対して、こちらのトリオはあくまでも三宅庸介のギターが作りだす世界観を最重要な命題として、その世界を具現化するために、山本征史と金光健司が、彼を支えていくというスタイルとなっている。
 オープニング・ナンバーは、アルバム『Lotus And Visceral Songs』の5曲目に収録されている「Fantasia」。楽曲としてカッチリとした形を保ちながら、そこはライヴならではの躍動感を表現して、スピードコントロールの効いた演奏が広がっていく。
photo リズムのふたりも、そんな三宅庸介のスピードに対する感覚に、臨機応変につきあっていく。アルバムを聴いたときには、曲によるアプローチの違いが、バラエティ豊かな側面を作り出していたという印象が強かったのに、この日のライヴでは、バラエティ豊かというよりも、ジミ・ヘンであったり、ジェフ・ベックであったりという、彼の血となり肉となったエッセンスが、彼の手を通じてストラトを鳴らしていることが、ストレートに伝わってきた。
 ときにはディストーションを控えて弦の鳴りを響かせてみたり、ピックではなく指を使って微妙なニュアンスを表現してみたり、三宅庸介が彼自身のポテンシャルを最大限に発揮するために、瞬間的にそのアプローチを取っていることが、客席からもダイレクトに見てとることができた。
photo 中盤で披露されたディレイとアーミングを多用して、ストラトキャスターの特性を披露していくかのようなアプローチは、かつてのジミ・ヘンドリックスの方法論を彷彿とさせるものだったが、暴れまくっていた60年代終盤の原初的なストラト・サウンドではなく、コントロールのよく効いたもので、さすがに時代は21世紀であることを示していたように思える。
 ステージの後半になればなるほど、フリーキーにギターを操る時間が増えていき、山本征史と金光健司のふたりもエモーショナルなリズム・ワークで、そんな三宅庸介を盛り上げていく。
 さすがに、アルバムでヴォーカルが入っている楽曲は披露されなかったが、ちゃんと新曲も演奏して、いま彼がどういうものを作ろうとしているのかということも、ちゃんと観客に示すことも忘れてはいない。
 6曲というメニューは、曲数としては少なめに感じたものの、その内容の濃さと時間的な長さがあいまって、最後の曲が終わったときでも、物足りなさを感じることはなかった。
 また、三宅庸介が敬愛している大谷レイブンと同じステージに立ったということで、観客のほうもなにかが起きるという期待感を持って、ステージを去っていく3人に惜しみない拍手を送っているように見えた。
 そんな観客のアンコールの声援に応えて、再びステージに戻ってきた三宅庸介は、83年11月13日に京都の磔磔で、マリノのライヴを最前列で初めて観たことを告白。当時、マリノでアグレッシヴなギターを弾いていた大谷レイブンを、ステージに呼び込んで、静かにアルペジオを弾き始めた。
 そのアルペジオに導かれるように、大谷レイブンがあまりにも懐かしいフレーズをつむぎだしていく。それは、ギター・ミュージック・マニアならば、絶対に忘れることのできない1975年にジェフ・ベックが発表した希代の傑作アルバム、『ブロウ・バイ・ブロウ』のエンディングを飾っている、あの名曲のイントロだった。
photo 三宅庸介のアルバムで、唯一のカヴァーとして収録されている「Diamond Dust」。かつてジェフ・ベック・グループのメンバーたちとソロ・アルバムをレコーディングした大谷レイブンと一緒に、その名曲を演奏する。その場にいた多くの人が、彼らふたりの歴史を彩るいくつかのシーンに、想いをめぐらせたことだろう……。
 三宅庸介の抑えた表情のストラト・サウンドと、骨太の大谷レイブンの音色が、からみあいながら空気の粒子を震わせているような、不思議な空気感が一瞬にして漂いはじめる。
 ジェフ・ベックの手による楽曲であるにも関わらず、ふたりのギタリストはただコピーに徹しているわけではなく、細かく自分自身の主張を入れてくる。よく曲を知っている人が聴いていたとしても、そのアプローチによって、歴史的な名曲が新しい顔を見せたような感覚を覚えたことだろう。まったく違った個性のふたりのギタリストがあやつるギターの音色が、三軒茶屋の空気を魔法で染めていくような錯覚を覚えるほど、見事なエンディングのセッションだった。
 ステージに乗っているすべてのアンプがマーシャルで、ベース・アンプまでマーシャルという、機材にもこだわったライヴだけに、本当の意味でロックの“いい音”に触れることがきたのも、この日の喜びにひとつだった。
 「グレープフルーツ・ムーン」に足を踏み入れるまでは、日常のささいな出来事や仕事が脳裏のどこかで、ブツブツと文句をつぶやいていたものだが、このセッションが終了したときには、聴いていたこちらの肉体がギター・サウンドに溺れてしまって、気だるい満足感に見舞われていた。
 それは、触れることのできない“音楽”という存在が、確実に実体をともなって、人間の肉体に入りこんできた瞬間だと、ボクは信じている。
 音楽は、そしてギターの音色は、確実に聴く人を変えるマジックを持っているのだから。

"Sound Experience"nov,2 '2010 at 三軒茶屋Grapefruit Moon / set list

◆BLACK TIGER

1. いいのだ
2. Sister SPIDER (voレイブン)
3. テクノ
4. Stormy Nighit (voレイブン)
5. Call On Me (voロジャー)
6. Colour (voサトケン)
7. ブラック・タイガーのテーマ
8. Razor Boogie
9. おやすみ (voレイブン)

◆Yosuke Miyake's Strange, Beautiful and Loud

1. Open The Door 〜 Fantasia
2. Bloom
3. If
4. Stratify
5. Solitary Past
6. Virtue

encore.Diamond Dust (w/ 大谷レイブン)

GEAR REVIEW

まずは、幻惑のMIYAKE TONEを生み出す三宅愛用の機材たちをつぶさに見てみよう。


・ギター

photoこの日使われたギターは2本。
1本はいつもメインで使われる2000年Fender C/S製 Stratocaster '69モデル。
リフレットなどメインテナンスは行われているが、基本的にノーマルのまま使用されているようだ。Closet Classicだったそうだが、もはやHeavy Relic。

もう1本はサブとして、ルックスがそっくりのラージ・ヘッドのストラト。こちらは1985年Fender Japan製'72モデルとのこと。
・アンプ

photoライブ・レポートにもあるように、この日はステージの背後にMarshallの壁がそそり立っていた。 三宅が使っていたのは1997年製JCM2000 DSL100。
リバーブを取り外しているほか、Tubeも交換。目指しているのは'72〜73年の1959 soundだそうだ。

キャビネットは1960 BV。Celestion vintage30を4発搭載。スピーカーは1つづつ聴き比べて並べ変えたうえ、内部cableを交換しているというこだわりよう。
・エフェクト

photoギターの信号は、ボード右側のハンドルのところにある銀色の三宅自家製I/Oボックスに送られる。このボックスに特にバッファなどは入っていない。ボード上のエフェクターはそこから時計回りに、Sobbat Drive Breaker Four DB-4R、Ibanez Tube Screamer Classic TS-10、ProvidenceのスイッチャーPEC-1、Sobbat Glow-Vibe GV-1、左上はパワーサプライ、チューナー、そして紅白のゼブラ模様のボックスはToneworks 301dl Dynamic Echo、右上のNoah's Ark Compact Mini Mixer(プロト)、となっている。

いくつか気になるユニットをピックアップしよう。
■Sobbat Drive Breaker Four DB-4R
ブティック・エフェクト・メーカーの老舗、京都製Sobbatのオーバードライブ。4世代目となるこの機種では3種類のオーバードライブとBoost1chを装備。三宅のセッティングはODB-1、すなわち原音を生かしたナチュラルなオーバードライブとなっている。本人によれば下の「TS-10のような使い勝手ができる」そうだ。この日はゲインをTS-10より低くセッティングし、時折Boostスイッチを併用。

■Ibanez TS-10
TS-9に続き、最近中古市場で人気が出てきたTS-10。三宅の個体は90年製。
「TS9や808に較べてピークが少しだけ下にあるように感じます。巷で人気のJRC4558の最初期型も所有してますが、この台湾製MC4558搭載の後期型のほうがMarshallに合うし叫ぶから好きです。」とのこと。

■Sobbat Glow Vibe
Sobbatのペダルが大好きという三宅。数あるユニヴァイブ系のペダルの中からこれを選んだ理由を尋ねると、「これを超えるものはない、のが理由です(笑)」。
「揺れ感、回転感、Tone、ルックス、全てにおいて完璧」ということだが、残念ながら現在は生産終了。つま先でのスピード・コントロールのしやすさは特筆もの。

■Toneworks 301dl Dynamic Echo
コルグ製のデジタル・ディレイ。日本より海外での人気が高いようで、中古市場でも人気がある。ディレイ・サウンドを色々エディットできるのが特徴で、lo-fiセッティングでテープ・エコーのような音づくりが可能。また、作ったサウンドを2種類プリセットできるのも便利である。三宅の個体はなにやら改造してあるらしいが、そこはヒミツ。

■Noah's Ark Compact Mini Mixer
三宅がイケベ楽器に製作をもちかけて、のちに製品化されたミキサー(現在は生産終了)。三宅はディレイによる音やせを防ぐため、PEC-1からの信号をパラで301dlに送り、ここで原音とミックスしてアンプに送っている。



photophoto最後に大谷の機材についても簡単に触れておく。

この日使われたのは貫禄のビンテージ・ギター3本(写真は2本のみ)。

Fender Stratocasterは1973年製、Gibson LesPaul Customは1969年製、アンコールで使ったゴールドトップのLesPaulはテクニシャン所有のもので1956年製(!)ということだ。改造の有無などは不明。

Marshallは1969年製1959(100W)、ステップアップ・トランスを使用。アンプにはRoland RE-501テープエコーを接続。RE-501は当時のREシリーズの最上位機種で、これ1台でエコー、リバーブ、コーラスの効果を出すことができる。ちなみにMarshallはインプットリンクされていた。

足下にはRE-501の切り替えフットスイッチのほか、極めてシンプルに、ワウ、オーバードライブ、ファズなどが並んでいた。

CDStratocaster & Marshallが奏でる激しくも耽美な音世界

「Lotus and Visceral Songs」
Yosuke Miyake’s Strange,Beautiful & Loud


Triumph Records
XQHK-1001
全9曲
2,940円 (tax in)

1. Stratify
2. Sorcerer
3. Bloom
4. Solitary Past
5. Fantasia
6. Diamond Dust
7. Virtue
8. Zira
9. What Can I Dew

アンカー