第1部はボズ・スキャッグスのステージ。ノーネクタイのスーツ姿で、背筋を伸ばして歌い、ギターを弾く姿はダンディーで、凛としている。

1曲目「ロウダウン」、2曲目「ジョジョ」、3曲目「スロー・ダンサー」と、AORを代表するナンバーが、AORを代表するアーティストによって、立て続けに演奏されていく。AORという言葉は本来「アルバム・オリエンテッド・ロック」の略で、「アダルト・オリエンテッド・ロック」というのは日本式の解釈だということは分かっている。だが、とても良い年の取り方をしているボズの歌と演奏は、今になって「AOR」が本当に「アダルト・オリエンテッド・ロック」になったのだと思わせるのに十分だった。
4曲目「デザイアー」からデヴィッド・ペイチが登場。まん丸な体にブルース・ブラザーズ・スタイルの帽子、サングラス、スーツ。80年代の彼からは想像もつかない姿なのだが、プレイは不変。名盤『シルク・ディグリーズ』を作り上げた2人の才能が、国際フォーラムのステージ上に迸っていた。
「ハーバー・ライト」も「ジョージア」も良かった。だが最も感動的だったのは、やはり「ウィ・アー・オール・アローン」だ。この名曲中の名曲を、ボズとペイチの共演で聴けたことは、とても幸せだった。
アンコールでは、もうひとつ嬉しいことに、「ローン・ミー・ア・ダイム」をやってくれた。これはまったく売れなかったファースト・アルバムに入っていたブルース・ナンバー。デュアン・オールマンがあまりにも素晴らしいギターを弾いている、隠れた名曲だ。今回ボズはほとんどの曲でギターを弾いたが、ここでもブルージーなギターを聴かせてくれた。決して上手くはない。だが、胸にジンと沁みてくるプレイだった。

そして、第2部はTOTO。メンバーは、スティーヴ・ルカサー(g/vo)、デヴィッド・ペイチ(key)、ボビー・キンボール(vo)、ジョセフ・ウィリアムス(vo)、サイモン・フィリップス(ds)、グレッグ・フィリンゲインズ(key)、リー・スクラー(b)、トニー・スピナー(g)。体調不良を理由に近年ツアーに参加していなかったデビッド・ペイチが参加しているのが、ファンには嬉しい。
ボズのステージとは一変、こちらはルカサーとペイチを中心として、悪ガキがそのまま大人になったかのような、ワイルドなステージとなった。「ジプシー・トレイン」、「コート・イン・ザ・バランス」、「パメラ」……と続いていく、初期の大ヒット曲を外した選曲は、決してTOTOは懐メロ・バンドではないという意志の表れだったのだろうか。
ルカサーはミュージック・マンのLUKE(ルカサーのシグネイチャー・モデル)を、激しく歪ませて弾きまくる。インタヴューでは、日々ジャズのコードなどを研究していると言っていたが、ステージに昇ればほとんどハード・ロック・ギタリストと言ってもいいほどだ。アンプはカスタム・オーディオ・エレクトロニクス。ただし、歪ませ過ぎもあってか、音の抜けがあまりいいとは言えなかった。
ヴォーカルのキンボールはちょっと出てきては歌い、また引っ込む。ジョセフ・ウィリアムスも同じ。ということもあって、TOTOと言うよりも、ルカサー・バンドにデヴィッド・ペイチが加わって花を添えた形にも見えてくる。
そのペイチとフィリンゲインズによる、キーボード・ソロ・コーナーは素晴らしかった。ルカサーによると“ノー・リハーサル”らしいが、次から次へと曲が繰り出され(「ホールド・ユー・バック」など)、それがアドリブでどんどん展開していくのを聴いていると、楽しいのは通り越して、もう呆然としてしまうほど。
8曲目で「ロザーナ」が始まると、会場は一気に最高潮を迎えた。そのあとメドレー形式で、「アイル・サプライ・ザ・ラブ」、「アイソレーション」、「ギフト・オブ・フェイス」、「キングダム・オブ・デザイア」、(ルカサーのソロ)、「ハイドラ」、(サイモン・フィリップスのソロ)、「テイント・ユア・ワールド」と畳み掛けてくる。このうちの何曲かは、できればメドレーではなしに聴きたかったというのが正直なところではあったが……。そして、「ホールド・ザ・ライン」で本編は終了。
アンコールでは1曲目に「アフリカ」を。これはペイチがヴォーカルを取った。その後、ボズを含むオール・キャストが登場して、ビートルズの「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド」(ジョー・コッカーのヴァージョンで)。ボズとTOTOの関係を考えると、この歌の内容は本当にこの日のライヴにピッタリと来るものだったと言えるだろう。

だらだらとしたMCや、ボズの物真似など、終始ワルノリ気味のルカサーではあったが、ボズへの感謝の気持ちと、このジョイント・ツアーを実現できたことの喜びは、観ている私たちにも強く伝わってきた。「すべてはボズのおかげだ」と語った言葉は、決してお世辞ではなかったはずだ。
また、この日を最後にTOTOは活動を休止することもあって、ルカサーの中にはさまざまな思いが去来したのではないだろうか。
うまく年輪を重ねてきたボズ。年を取ることを拒否するかのように振る舞うルカサー。そんな両極端な2人がステージの上で、肩を組み合い、微笑み合っていた。