2月21、22日、さいたまスーパーアリーナで、エリック・クラプトンとジェフ・ベックの共演コンサートが実現した。
 60年代にロック・ギターの基礎を作り上げ、それを発展させたのがこの2人だ。彼らの功績はどれほど讃えても足りないし、すべてのロック・ギタリストはこの2人(と、ジミ・ヘンドリックス)を源流に持つと言っても過言ではないと思う。
 そんな彼らのダブル・ヘッドラインでのコンサートは史上初のこと。今回、たまたま来日時期が重なったことで実現したというから、2度目はまずないと思っていいだろう。そういう意味でも、いや、どんな意味でも、これはロック・ファンの夢が叶った、あまりにも奇跡的なコンサートだ。

写真 第1部はベックのステージ、第2部がクラプトン、そして第3部がクラプトンのバンドをバックに2人が共演、という構成。1部も2部も、それぞれの単独公演よりは短いものだったが、共演に向けての2人の力の入り具合が感じられる演奏だった。また、クラプトンがアコースティック・セットから演奏をスタートさせたことも付け加えておきたい。それは、ベックとは違う自分のアーティスト性や方向性をあえて強調してみせた、という気もしないではなかった。

 第2部が終わり、ほんの少しのインターバルを挟んで、いよいよ第3部へ。観客からの大歓声とは裏腹に、さりげない様子で、クラプトンとベックは肩を並べ、話しをしながらステージに登場してきた。彼らが同時にステージ上に存在する。ただそれだけのことが、とてつもなく巨大な出来事に思える。

 クラプトンはダフネ・ブルー(か、それに近い色)のクラプトン・モデル・ストラトを使用。もちろんメイプル・ワンピース・ネックで、ミッド・ブーストが内蔵されている。ベックは白のジェフ・ベック・モデル・ストラト。やや黄色がかった個体で、前回、前々回来日時にも使用していたもの。こちらはもちろんローズ指板で、ローラー・ナット、ロック式ペグ、2点止めトレモロ・ユニットと、彼のアーミング・プレイを支える3点セットが装備されている。
 1曲目は、3月に発売されるベックのライヴDVD『ライヴ・アット・ロニー・スコッツ・クラブ』の中でも共演しているマディ・ウォーターズのブルース・ナンバー、「ユー・ニード・ラヴ」だ。先にソロを取ったのはベック。アーミングやハーモニクスをはじめとした彼らしい技を駆使した、非常にスリリングなものだった。一方のクラプトンは、正攻法のブルース・スタイル。こちらもまたクラプトンらしい。今回の共演では、クラプトンとベックの、ギタリストとしての、またアーティストとしての、個性や方向性の違いが鮮明に出ていた。もちろんそんな違いは分かりきっていたはずだが、実際に共演を生で観ることによって、より深く納得させられた気がする。
 次は「リッスン・ヒア〜コンペアード・トゥ・ホワット」のメドレー。前半曲がエディ・ハリス、後半曲がレス・マッキャン&エディ・ハリスのナンバーだ。エディ・ハリスはジャズ・サックス奏者で、ベックは70年代に彼のアルバムに参加したことがある。レス・マッキャンはジャズ/ソウル系ピアニストでシンガーだ。「リッスン・ヒア」は60年代にヒットしているが、今となってはほとんど無名の曲を取り上げるところが憎い。ドイル・ブラムホールIIIがヴォーカルを取るバックで、クラプトンとベックが揃ってバッキングをする、これもまた貴重すぎるほどに貴重なシーンだった。
 「ヒア・バット・アイム・ゴーン」はカーティス・メイフィールドの曲で、クラプトンは自分のライヴでもこれを取り上げている。こうしてみると、お互いに演奏曲候補を出し合って相談し、決定したのだろうと想像できる。初日にこの曲で、クラプトンとベックが向かい合い、フレーズの応酬をした場面は強烈に印象に残った。
 そして、クリームの「アウトサイド・ウーマン・ブルース」。このナンバーでの2人は本当に熱かった。力がみなぎったクラプトンのプレイと、それを迎え撃つベックのプレイ、それはまさに両者一歩も引かずと言うのが相応しかったと思う。クラプトンもギタリストとしての本能というか、野性というか、そういう何かが目覚めたかのようだった。
 次は、1曲目と同じくDVD『ライヴ・アット・ロニー〜』に収録されているマディ・ウォーターズの「リトル・ブラウン・バード」。ここでのクラプトンは、ギターと歌に全神経を集中させ、ブルースと一体になった演奏を聴かせてくれた。一方のベックは、ブルースを超えたブルース、異次元のブルースを聴かせてくれた。それは、ブルースとはこういうふうに演奏することもできるのだと、大きな驚きとともに教えてくれるものだった。あの日あの場にいた多くのギタリストたちが、ただため息と、「すげぇ……」という言葉だけを発しながら、ベックの手元を見つめ続けていた。
 最後は、ジミー・リードの乗りのいいナンバー、「ウィー・ウィー・ベイビー」。この曲では、クラプトンの歌とベックのギターがさりげなくコール&レスポンスするところが最高の見せ場だったと言っていいだろう。それぞれのソロ、特に乗りに乗って手がつけられないような状態になったベックのソロは本当に素晴らしかったが、それでもこのコール&レスポンスこそが、何にも増して印象に残った。
 アンコールはスライ&ファミリー・ストーンの「アイ・ウォント・トゥー・テイク・ユー・ハイアー」。コーラス部分以外はインストにアレンジし直されていた。歌メロをクラプトンとベックが交互に弾くというのも、もう2度と観られないのではないだろうか。それぞれのソロもまた、お互いの個性を前面に押し出した、見事なものだった。

 こうして約40分間の共演は終わった。メンバー全員で肩を組んで挨拶をしたあと、2人はまた話しをながら、ゆっくりとステージを去っていった。
 友人であり、ともにロック史にその名を刻むギタリストであり、現役として今も精力的に活動している2人。だが彼らの音楽性・アーティスト性はまるっきり違う。彼らの異なった軌道が、この日本で2日間だけ交わる奇跡を、私たちは目撃することができたのだ。

CD1
February 21st 2009 Saitama Super Arena
Pt.1
JEFF BECK
Pt.2
ERIC CLAPTON & his band
Pt.3
ERIC CLAPTON & JEFF BECK
1. THE PUMP
2. YOU NEVER KNOW - SOLO SHORT
3. CAUSE WE'VE ENDED AS LOVERS
4. STRATUS
5. ANGEL
6. LED BOOTS
7. PORK PIE/BRUSH
8. JEFF & TAL SOLO
9. BLUE WIND -SHORT
10. A DAY IN THE LIFE
11. PETER GUNN
1. DRIFTIN
2. LAYLA
3. MOTHERLESS CHILD
4. RUNNING ON FAITH
5. TELL THE TRUTH
6. QUEEN OF SPADE
7. BEFORE YOU ACCUSES ME
8. COCAINE
9. CROSSROADS
1. YOU NEED LOVE
2. LISTEN HERE -COMPARED TO WHAT
3. HERE BUT I'M GONE
4. OUTSIDE WOMAN
5. BROWN BIRD
6. WEE WEE BABY
7. WANT TO TAKE YOU HIGHER

February 22nd 2009 Saitama Super Arena
Pt.1
JEFF BECK
Pt.2
ERIC CLAPTON & his band
Pt.3
ERIC CLAPTON & JEFF BECK
1. THE PUMP
2. YOU NEVER KNOW - SOLO SHORT
3. CAUSE WE'VE ENDED AS LOVERS
4. STRATUS
5. ANGEL
6. LED BOOTS
7. PORK PIE/BRUSH
8. JEFF & TAL SOLO
9. A DAY IN THE LIFE
10. BIG BLOCK
11. WHERE WERE YOU
12. PETER GUNN
1. DRIFTIN
2. LAYLA
3. MOTHERLESS CHILD
4. RUNNING ON FAITH
5. TELL THE TRUTH
6. KEY TO THE HIGHWAY
7. I SHOT THE SHERIFF
8. HOOCHIE COOCHIE MAN
9. COCAINE
10. CROSSROADS
1. YOU NEED LOVE
2. LISTEN HERE -COMPARED TO WHAT
3. HERE BUT I'M GONE
4. OUTSIDE WOMAN
5. BROWN BIRD
6. WEE WEE BABY
7. WANT TO TAKE YOU HIGHER